診療内容(循環器内科)

1.はじめに

 循環器内科では、先天性心奇形、不整脈、心筋炎・心筋症など、小児の心臓に関する病気全般について、幅広く診療を行っています。診療にあたっては、心臓血管外科、新生児科、救急診療・集中治療科などと協力し、チーム医療により良好な成績をあげています。
 先天性心奇形については、正確な診断、適切な手術のタイミングや方針の決定、術前・術後遠隔期の管理などがとても重要です。胎児診断技術の進歩により出生前に診断される症例が増加しており、新生児科と産婦人科との協力で出生時からの計画的な治療を行っています。手術時期や方針の決定にあたっては、十分に議論し、患者さんにとって最も効果的で優しい医療となるよう心がけています。
 不整脈は、先天性心奇形によるものの他、学校心臓検診で発見されるものも多くなっています。軽症の不整脈に関しては、学校生活や運動を安全に行えるよう、確実なスクリーニングを心がけています。治療が必要な不整脈に関しては、内服治療の他、カテーテル治療(アブレーション)も積極的に導入しています。
 心筋炎・心筋症は、心臓のポンプ機能の異常をきたす疾患で、生来健康であったお子さんで急激に状態が悪化することも多く、緊急の対応が必要です。当院では、救急診療・集中治療科や心臓血管外科との協力により、体外循環も含めた高度医療を迅速に行えるような体制を整えています。
 当科の特徴として、症例数が非常に多いこと、また出生前診断が多いことから左心低形成症候群や無脾症、多脾症の単心室症をはじめとする重症心奇形の治療、重症心不全管理や心臓カテーテル治療を積極的に行っていることがあげられます。
 心臓病の説明は、どうしても内容上難しくなりがちです。また同じ病気でもひとりひとり内容も、必要な治療は違います。ご理解して頂けるよう努力していますが、わかりづらいことがありましたらご遠慮なくスタッフまでご相談ください。代表的な項目に関して、以下にくわしくご説明します。
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2.診療実績

 循環器内科の過去2年間の実績は以下の通りです。
2013年度 2014年度
入院患者数(延患者) 6,058 7,106
心臓超音波検査 7,188 7,050
心臓カテーテル検査 399 411
カテーテル治療(詳細は下図参照) 137 148
経食道エコー検査 82 84
ホルター24時間心電図 137 128
運動負荷検査 143 122
 心臓カテーテル治療の詳細を下図に示します。
2013年度 2014年度
弁形成術
肺動脈弁 5 16
新生児重症大動脈弁狭窄 1 3
血管形成術
肺動脈 24 30
大動脈 12 7
経皮的心房中隔裂開術 16 33
動脈管開存
アンプラッツァー閉鎖栓 9 4
9 5
心房中隔欠損
(アンプラッツァー閉鎖栓)
44 33
不整脈治療(アブレーション) 5 6
 2013年度の循環器内科入院患者の疾患別内訳は以下の通りです。
疾患名 総入院
件数
新患者 疾患名 総入院br>件数 新患者
WPW症候群 1 1 総動脈幹 6
ウイリアムズ症候群 1 総肺静脈還流異常 13 8
エブスタイン奇形 5 多脾症候群 4 2
ファロー四徴症 46 14 大動脈弓離断症 2 1
右室型単心室症 2 大動脈狭窄症 1 1
右側大動脈弓 1 1 大動脈縮窄症 10 4
右肺動脈狭窄症 1 1 大動脈閉鎖 1 1
冠状動脈瘤 1 大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症 6 4
完全型房室中隔欠損症 15 5 単心室症 23 1
完全大血管転位症 21 5 蛋白漏出性胃腸症 1
感染性心内膜炎 1 腸骨動脈瘤 1 1
急性心筋炎 3 3 動脈管開存症 19 19
極型ファロー四徴 7 3 洞不全症候群 1 1
左心低形成症候群 19 1 特発性肺動脈性肺高血圧症 1
左肺動脈狭窄症 1 肺炎 2
三心房心 1 肺動脈性肺高血圧症 11 1
三尖弁閉鎖症 12 1 肺動脈閉鎖症 23 6
主要大動脈肺動脈側副血行路 1 肺動脈弁狭窄症 5 1
修正大血管転位 8 2 房室中隔欠損症 16 9
心室中隔欠損症 38 27 末梢性肺動脈狭窄症 3 1
心内膜床欠損症 5 2 慢性心不全 2
心房粗動 1 無脾症 1
心房中隔欠損症 60 55 両大血管右室起始症 16 6
川崎病性冠動脈瘤 2 1 両大血管左室起始症 1
僧帽弁狭窄症 4 2 その他 27 6
総計 454 197
 2014年度の循環器内科入院患者の疾患別内訳は以下の通りです。
疾患名 総入院
件数
新患者 疾患名 総入院
件数
新患者
QT延長症候群 4 3 多脾症候群 2 1
WPW症候群 1 1 大動脈弓離断症 2
エブスタイン奇形 4 大動脈狭窄症 1
ファロー四徴症 70 16 大動脈縮窄症 7 3
右室低形成症候群 2 1 大動脈先天異常 2
拡張型心筋症 6 4 大動脈弁狭窄症 4 1
完全型房室中隔欠損症 26 10 大動脈弁閉鎖不全症 1
完全大血管転位症 20 3 単心室症 20 1
完全房室ブロック 5 1 単心房症 4
感染性心内膜炎 1 1 蛋白漏出性胃腸症 3
急性心不全 5 3 動脈管開存症 16 13
急性心膜炎 2 肺静脈狭窄症 1
左心低形成症候群 11 1 肺動脈狭窄症 15 5
左肺動脈起始異常 1 1 肺動脈性肺高血圧症 7
三尖弁閉鎖症 8 3 肺動脈閉鎖症 29 11
主要大動脈肺動脈側副血行路 1 肺動脈弁狭窄症 8 2
修正大血管転位 8 1 肺動脈弁閉鎖 4 1
重複大動脈弓 2 2 発作性上室頻拍 1
心室中隔欠損症 45 29 肥大型心筋症 1
心房中隔欠損症 47 37 不完全右脚ブロック 1
川崎病 5 不完全型房室中隔欠損症 2
僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症 1 慢性心不全 2
僧帽弁閉鎖不全症 3 無脾症 3 3
総動脈幹 3 両大血管右室起始症 26 7
総肺静脈還流異常 6 3 その他 9 1
総計 458 170
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3.カテーテル治療について

 カテーテル治療には、“穴をふさぐ”、“せまい血管を広げる”、“血管をつめる”とさまざまな手技があります。いずれの治療も外科手術と比較して、お子様にとって、有効でかつ安全に出来ると判断した場合に行っています。場合によっては、手術を選択して頂いたり、手術と一緒に組み合わせて行う(ハイブリット治療とも言います)こともあります。どんなカテーテル治療にもリスクがありますが、有効性とリスクを充分考慮した上で、カテーテル治療に臨んで参ります。
 次項より代表的なカテーテル治療をお示します。
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3-1.心房中隔欠損(しんぼうちゅうかくけっそん)

 心房中隔欠損は、右心房と左心房と間にある壁(心房中隔と呼びます)に穴(欠損孔)がある病気で、先天性心奇形の10-15%を占めます。欠損孔が大きい場合には、心雑音、肺炎を繰り返す、体重が増えにくいといった症状からみつかります。小学校に入ってからも学校検診で、心電図異常(不完全右脚ブロック)など特徴的な心電図のパターンから発見されることが多い疾患でもあります。欠損孔を通る血流が多いと、右心房、右心室や肺動脈への負担が大きくなり、不整脈や心不全の原因となるため、何らかの方法で心房中隔欠損を閉じる必要があります。
 Amplatzer(アンプラッツァー)閉鎖栓を用いたカテーテル治療は、2005年に日本で承認され、当院では2006年に導入して以来、約300症例に治療を行ってきました。この治療は4泊5日の入院を必要とします。退院した日から普段通りの生活が可能です。傷がほとんど目立たない(両足の付け根にある血管を使用します)、負担が小さい事がメリットですが、欠損孔が大きい場合や難しい位置にある場合には、リスクが高くなります。当院では、心房中隔欠損全体の80%にカテーテル治療を行っていますが、残りの20%は現時点でも手術を選択しています。決して全員に対して出来る万能の治療ではありません。閉鎖栓の一部が大動脈を損傷する合併症のリスクもあるため、慎重にカテーテル治療と手術のメリット、デメリットを考えて治療法を選択する必要があります。
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3-2.動脈管開存(どうみゃくかんかいぞん)

動脈管とは
 大動脈と肺動脈とをつなぐ血管です。胎児期には、赤ちゃんにとって、とても重要です。胎盤から来る最も新鮮な血液は動脈管を通って脳へと運ばれて行きます。生まれた後に、肺での呼吸が開始されると必要なくなるため、通常は生まれて48時間以内に動脈管は縮んで閉じてしまいます。
動脈管開存とは
 動脈管が開いたまま残った状態を動脈管開存と呼びます。全先天性心疾患の5-10%を占める比較的頻度の高い疾患です。動脈管開存があると、大動脈から肺動脈へ血液が流れてしまい、結果的に肺静脈、左房・左室への血流が増え、心臓への負荷が高くなります。3-4mm以上の太い動脈管の場合、汗が多い、呼吸がはやい、体重の増えが悪い、気管支炎をこじらせやすいなどの症状が出てきます。さほど動脈管が太くない場合でも左房や左室への血流が増えているため、基本的には治療が必要となります。雑音が聞こえないくらい細い動脈管開存の場合には( silent PDA と呼びます)、治療を必要としない事もあります。
治療
 カテーテル治療には、コイルを用いる方法とアンプラッツアー閉鎖栓ADOを用いる方法の2種類があります。動脈管を通る血流が多い、動脈管がやや太い場合には、アンプラッツアー閉鎖栓ADOを用います。ADOにより安全に、より短時間に治療が可能となりました。いずれの治療も2時間程度で、入院は2泊3日です。

大動脈より動脈管開存を通って
肺動脈が造影される。

動脈管開存を通る血流が
コイルにより消失している。

ADOで動脈管開存の
閉鎖を行ったところ。
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3-3.血管形成術

 主に先天性心疾患の術後に、肺動脈や大動脈の狭い箇所にバルーンカテーテルを用いて、血管をひろげる治療をおこなっています。手術とカテーテル治療のそれぞれの強みを最大限利用して、より良い治療効果を目指します。手術中にカテーテル治療を組み合わせて行うハイブリット治療を選択することもあります。治療を必要している箇所にダイレクトにかつ太いカテーテルでもアプローチができる点が強みです。
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3-4.ステント留置術

 肺動脈や大動脈の狭い箇所に血管形成術が行った後に、まだ狭い場所が残っていることがあります。こうした場合には、金網状になっているステントというものを用いることがあります。大人の領域では、心筋梗塞のリスクのある冠動脈内の狭くなっている箇所に対するステント留置術が、よく行われています。血管が硬くなっているため、バルーンカテーテルでは充分な治療効果が期待できないためです。ステントの材質も、技術の進歩に伴い改善され使いやすくなってきています。

左右の肺動脈の分岐部が狭い。(矢印)

左右の肺動脈の分岐部にステントが
留置され、狭窄が解除された。
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3-5.弁形成術

 肺動脈弁や大動脈弁が狭くなっている場合に、バルーンカテーテルを用いて、弁をひろげる治療をおこなっています。特に生まれて間もない新生児の重症肺動脈弁狭窄や重症大動脈弁狭窄は、治療のタイミングを失わずに行うことがとても重要です。肺動脈弁が閉鎖している肺動脈弁閉鎖の場合にも、カテーテルで広げることもあります。カテーテル治療では治療効果があまり期待出来ない場合、外科手術を選択します。

右室流出路で造影を行い、
肺動脈閉鎖を確認。(矢印)

肺動脈弁を穿破した後に、バルーン
カテーテルで拡張を行っているところ。

1年後の右室造影像。
肺動脈弁(矢印)の流れがスムーズ。
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3-6.コイル塞栓術

 チアノーゼがある場合に、肺動脈への血流を増やそうと体が反応して大動脈などから細い側副血管と呼ばれる血管を伸ばそうとします。わき道のようなものなので、通常の血管と比べて細く蛇行してします。こうした血管でも多すぎると心臓に負担になってしまったり、次の手術を行う場合、足をひっぱってしまうことがあります。こうした場合に、柔らかくて細いマイクロコイルを用いると有効なことがあります。
 生まれつき、動脈と静脈が繋がっている血管奇形があります。動静脈瘻と呼びます。肺動静脈瘻や冠動静脈瘻が代表的です。動静脈瘻は次第に発育して大きくなったり、心臓への負担を来すことがあります。血管の形に沿って留置ができるマイクロコイルは、そうした血管の治療にとても有効です。

右冠動脈が直接左室に流れ込む冠動静脈瘻。

瘻孔にコイルが留置され、
右冠動脈から直接左室に流れ込む
血流がほぼなくなっている。
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4.単心室症とフォンタン手術

4-1.単心室症とは?

 通常心臓は4つの部屋にわかれ、左右2つの心室を有します。左右の心室はそれぞれ体血流、および肺血流を担うポンプの役割をします。単心室症とは左右心室が片方しかない、もしくは左右どちらかの心室が低形成で、肺血流および体血流を2つの心室別々に担えない疾患群のことです。
 単心室症では一つの心室から全身へも肺へも血流を送らなければならず、効率の悪い循環になっています。このような循環では全身から帰ってきた酸素の少ない血液が一つの心室で混ざり再び全身に流れるためチアノーゼを伴います。また出生後、肺と全身にバランスよく血液が流れている状態は少なく、多くは肺血流が増えているか肺血流が減少している状態にあります
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4-2.単心室症に対する治療(フォンタン手術)

 このような単心室症に対して、1.チアノーゼを消失させ、2.唯一の心室からは全身への血流のみを流し、3.肺への血流は心臓を通らず、血液の自然な流れで流す循環とする手術がフォンタン手術です(図1)。
 フォンタン手術を完成させる場合、通常少なくとも3つのステップが必要となります。
1.初期準備手術(出生後1カ月以内)
 肺血流が増えている場合、肺動脈を外からベルトで細くして血流をへらす肺動脈こう扼術(banding手術)、肺血流が減少している場合体動脈と肺動脈をつなぎ、肺血流を増やす短絡手術(BTシャント手術)を行います。肺血流量がちょうどよい場合、この時期の手術は必要ないこともあります。
2.グレン手術(生後3~6カ月前後)
 上半身の静脈血を肺に流す手術(上大静脈-肺動脈吻合)を行います。 これにより肺血流は上半身の血液でまかなわれます。ただし下半身の静脈血は直接心臓に流れ込むため、チアノーゼは残ります。
3.フォンタン手術(生後1歳6カ月~2歳)
 下半身の静脈血を肺に流す手術(下大静脈-肺動脈吻合)を行います。これにより上半身および下半身からの全ての静脈血は肺へと還流しフォンタン循環が完成します。これによりチアノーゼが消失します。
 フォンタン手術を必要とする疾患の状態によって、グレン手術の前にさらに追加準備手術が必要なことがあります。
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4-3.フォンタン手術後の問題点

 血流を維持するポンプが1つで、肺血流は受動的に流れるため術後も様々なことへの注意が必要です。
1.心不全
 弁逆流の出現や心機能低下がみられる場合があります。
2.不整脈
 年齢とともに進行する場合があります。脈が遅くなる不整脈の場合ペースメーカー使用の可能性があり、脈が早くなる不整脈の場合内服薬およびペースメーカーを使用する場合もあります。
3.血栓形成
 フォンタン循環では血栓症を発症するリスクがあります。当院では予防のためアスピリンを、またリスクの高い症例ではワーファリンの内服を行っています。
4.タンパク漏出性胃腸症
 肺動脈圧の高い症例などで血液中のたんぱく質が腸に抜け出し、低たんぱく血症と浮腫を認める場合があります。
5.肝機能障害
 肝臓からの血液のうっ滞に伴い、肝機能障害や肝硬変さらには腫瘍を生ずる場合があります。
6.チアノーゼの増強
 側副血行の発達や、肺の中でバイパスが生じチアノーゼが進行する場合があります。カテーテル治療や肺動脈の圧を下げる治療が必要になる場合があります。
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4-4.良いフォンタン循環を維持するには?

 良いフォンタン循環とはいかに低い肺動脈圧を維持し、全身からの血液の還りをよくするかということになります。
 下記にフォンタン循環の血液の流れをお示しします(図2)。
 全身からの血流は上下の大静脈→肺動脈→肺→肺静脈→心房→心室→大動脈→全身の順番に流れています。良いフォンタン循環の維持のためには図に示す時計方向の流れをいかにスムーズにするかということが大切になります。そのために弁逆流があればそれを治療し、狭窄があればその解除が必要になり、唯一のエンジンである心室の動きが悪くなると心機能を高める治療を行っていきます。このように時計まわりの流れをいかに良くするかがフォンタン循環を保つために大切なことになります。
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4-5.より良い生活を営んでいただくためにできること

 現在当院でも年間25例程度フォンタン手術に到達する方がいらっしゃいます。10年で200人以上の方が社会に飛び出していく計算になります。成人されてもよりよい社会生活を営んでいただくために、まずは良いフォンタン循環を維持していくための質の良い医療をご提供することが循環器チームの最低限の責務と考えています。また成長されていくお子様がより積極的な社会参加が出来るよう小さい時期からの教育や環境を整えるお手伝いができればと考えます。そのためにご家族はもちろん、地域社会や学校関係の方々と共にお子様の成長を見守っていきたいと思います。
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地方独立行政法人
神奈川県立病院機構
神奈川県立こども医療センター

循環器内科・心臓血管外科

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